「第2回母乳バンクカンファレンス」を開催いたしました

第2回日本母乳バンクカンファレンスが6月16日に昭和大学江東病院講堂にて開催された。全国から120名を超える参加をいただいたが、第1回とくらべて新生児科医師の参加が増えたのが印象的であった。

今回の内容をまとめると・・早産児に対して母乳は単なる栄養ではなく、疾病予防につながる"薬"としての役割が大きいことにある。
母乳には羊水成分と似た生理活性物質が多く含まれる。早産児は在胎期間の途中で出生するため、羊水から得るはずの成長因子、抗炎症因子などを母乳から得ることで、胎盤を通して得るはずであった生理活性物質を補うともいえる。
母乳にどのような作用があるのだろうかーヒトミルクオリゴ糖(HMO)と腸内細菌叢から考えてみる。
HMOは乳糖を基本構造におき200種類以上存在することがわかっている。個々の女性により持っているHMO種類は異なり、特定のHMOと疾病予防効果もわかってきている。
一般的なHMOの作用としては、いわゆる善玉菌(commensal bacteria)を増殖させる、病原菌が腸管上皮細胞から感染するのを防ぐ、腸管上皮のバリア機能を高める、さらには腸管に存在するリンパ装置から免疫系の発達にも関与するという。
母乳の重要性が注目されるようになったのは30年前にLucas教授(第1回日本母乳バンクカンファレンスのゲストスピーカー)が母乳で育つ早産児には壊死性腸炎が少ないことを見出したが、この根拠となるのはHMO(特にDSLNT)の存在なのである。
HMOは低温殺菌処理したドナーミルクにも作用も落ちることなく存在している。そのため、ドナーミルクは人工栄養よりも壊死性腸炎を減らす一つの根拠である。ドナーミルクの問題点としてしばしばあげられるのが、体重増加が不十分ということである。
 近年、人乳由来の母乳強化物質を使った研究が散見され、ウシの乳由来(日本で使用されているものもウシの乳由来である)の母乳強化や人工乳と有意差ない体重・身長増加が得られている。
人乳由来の母乳強化を日本で初めて使用したの症例について江東豊洲病院の櫻井講師から発表された。
-3SDの超早産児(メコニウム関連腸閉塞・高インスリン血症性低血糖・腎不全合併)でHMS2でフル強化しても体重が得られず、静脈栄養をやめられなかったが、人乳由来の母乳強化に変更後、数日で静脈栄養を中止でき、かつ、体重増加も明らかに改善した。
母乳に人乳由来の母乳強化を行う(ウシの乳由来成分を完全に排除する)栄養をEHMDと呼ぶが、EHMDは壊死性腸炎、慢性肺疾患、後天性敗血症、未熟児網膜症を減らすなど短期予後の改善につながることが多くの論文で報告されている。

長期予後に関するデータも散見されるようになった。5歳までフォローアップした研究によると、身長は平均に近いレベルであるが、体重は少なめで全体としてみると"痩せ気味"となる。
インスリン抵抗性など将来の生活習慣病のリスクもないことが最近の論文でも報告され、母乳(またはドナーミルク)と人乳由来の母乳強化は早産児の短期予後だけでなく長期的にも予後の改善につながることがわかってきた。

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